3Dプリント技術は、製造業だけでなく医療やデザインなど幅広い分野で急速に普及しています。中でも樹脂3Dプリント技術は、材料の柔軟性や軽さ、細部まで精密に造形できる特長から注目されています。樹脂を使った3Dプリントにはいくつかの方式がありますが、今回はその中でもSLS(粉末焼結積層造形)方式についてご紹介します。
SLS方式は、粉末状の樹脂をレーザーで焼結して層を作り、3Dモデルを形作る技術です。サポート材が不要で、複雑な形状や内部構造を持つパーツも高精度で造形でき、後処理も比較的簡単です。さらに、軽量で強度のある部品が作れるため、プロトタイプから最終製品まで幅広く活用できます。
このブログでは、SLS方式の技術や利点、用途について詳しく解説していきます。
SLS方式の原理
SLS(選択的レーザー焼結)方式は、ナイロンなどの粉末状樹脂をレーザーで焼結して層を積み上げる技術です。レーザーの熱で粉末を溶かして結合させ、複雑な形状の3Dモデルを作ります。サポート材が不要で、未使用の粉末が次の層を支えるため、精密で効率的な造形が可能です。
材料と仕組み
SLS方式で使われる主な材料は、ナイロン系樹脂や、ガラス繊維で強化された素材などです。これらの粉末は、ビルドチャンバーに薄く均一に敷かれ、レーザーが照射されることで、粉末が溶けて結合します。このプロセスを繰り返すことで、層ごとにモデルが形成されていきます。
レーザーは各層のデザインに沿って選択的に照射され、不要な粉末はそのまま残り、次の層をサポートします。これにより、サポート材が不要となるのがSLS方式の大きなメリットです。
造形プロセスの流れ
粉末供給:ナイロンなどの粉末をビルドチャンバーに均一に広げます。
レーザー焼結:データに基づき、レーザーで選択的に粉末を焼結し、層を形成します。
次の層の形成:新しい粉末を敷き、焼結を繰り返し積層します。
冷却と取り出し:冷却後、モデルを取り出し、未焼結粉末をリサイクルします。
このプロセスにより、高精度でサポート材不要の3Dプリントが可能となり、複雑な構造のパーツ製造に適しています。
SLS方式の樹脂プリントの特長
SLS方式の樹脂3Dプリントは、さまざまな分野で活躍しています。ここでは、SLS方式の特長である「高い自由度」「強度と耐久性」「多用途性」の3つのポイントに焦点を当てて、その魅力を詳しく解説します。
1. 高い自由度:サポート材が不要で、複雑な形状も可能
SLS方式の最大の特長の一つは、サポート材が不要という点です。従来の3Dプリント方式では、造形中に形を支えるためのサポート材が必要でしたが、SLS方式では、粉末材料そのものがサポートの役割を果たします。このため、複雑な内部構造やオーバーハングのあるデザインでも、サポート材に悩まされることなく、自由な造形が可能です。
さらに、サポート材が不要なことで、後処理が簡略化され、最終製品の品質も向上します。複雑な形状や細かいディテールを必要とするパーツやプロトタイプでも、SLS方式なら設計の自由度を大いに活かすことができます。
2. 強度と耐久性:樹脂材料でも高強度を実現
SLS方式で使用されるナイロン系粉末材料は、軽量でありながら高い強度と耐久性を兼ね備えています。このため、単なる試作品だけでなく、実際に使用される機能部品や最終製品の製造にも対応可能です。また、ナイロン以外にも、ガラス繊維や炭素繊維で強化された材料を使用することで、さらに強度を向上させることができ、耐熱性や耐衝撃性を求められるパーツの製造にも適しています。
3. 多用途性:試作品から最終製品まで幅広い用途に対応
SLS方式のもう一つの強みは、その多用途性です。プロトタイピングにおいては、精密な部品を短期間で製造することができるため、製品開発のスピードアップに貢献します。また、SLSで作られたプロトタイプは、実際の使用環境をシミュレーションできるほどの強度と精度を持っているため、製品テストにも最適です。
さらに、SLS方式は最終製品の製造にも適しており、小ロット生産からカスタムメイド品まで、幅広いニーズに応えることができます。自動車、航空、医療、消費財など、多様な産業での実用例があり、SLS方式の樹脂プリント技術は多くの可能性を秘めています。
SLS方式と他の樹脂3Dプリント技術の比較
3Dプリントにはさまざまな方式が存在しますが、それぞれに異なる特長があり、目的や用途に応じた選択が重要です。ここでは、特に普及しているFDM(熱溶解積層方式)やSLA(光造形方式)とSLS方式を比較し、その違いやSLS方式の優位性を解説します。
FFFやSLAとの違い
1. 材料の違い
FFF(熱溶解積層方式):プラスチックフィラメントを熱で溶かして層を積み上げる方式です。主にPLAやABSといった樹脂材料が使用され、手軽で安価な材料が多いのが特長です。
SLA(光造形方式):液状の光硬化性樹脂を紫外線レーザーで硬化させる方式です。滑らかな表面仕上げと高い解像度が特長で、デザイン性や細部の精度が重要な場合に利用されます。
SLS(粉末焼結積層造形):粉末状のナイロンなどの樹脂をレーザーで焼結します。FDMやSLAに比べて、高強度なナイロン材料を使用できる点が大きな違いです。
2. 精度と仕上がり
FFF:フィラメントの層を積み上げるため、細部の精度には限界があります。仕上がりは比較的粗めで、後処理が必要な場合も多いです。
SLA:非常に細かい層を硬化させるため、精度が高く、滑らかな表面仕上げが可能です。デザインモデルや試作品で、見た目が重要な場合に向いています。
SLS:FDMよりも高い精度を持ち、表面も滑らかに仕上がります。後処理が少なく、直接使用できる部品を作ることができるため、実用的なパーツの製造に適しています。
3. コストの違い
FFF:低コストで、一般的に手軽な家庭用や小規模プロジェクト向けの3Dプリント方式です。材料費も安価で、ランニングコストが抑えられます。
SLA:光硬化樹脂は比較的高価であり、さらに高精度なプリントが求められるため、FDMよりもコストがかかる傾向があります。
SLS:SLAやFDMと比べると設備費や材料費が高く、初期投資が大きいものの、高強度かつ高性能なパーツの製造が可能なため、最終製品の製造やプロトタイプに適した技術です。
SLS方式の優位性
SLS方式は、他の樹脂3Dプリント方式と比較していくつかの明確な利点があります。
1. サポート材が不要
SLS方式の大きなメリットは、サポート材が不要であることです。FDMやSLAでは、複雑な形状をプリントする際にサポート材が必要になることが多く、後処理が大変です。しかし、SLSでは未焼結の粉末が自然にサポートの役割を果たすため、追加のサポート構造を設ける必要がなく、自由なデザインが可能です。これにより、複雑な内部構造や複数のパーツを一度に造形する際も、後処理が簡単です。
2. 高い強度と耐久性
SLSで使用されるナイロン系の材料は、軽量ながら高い強度を持ちます。FDMやSLAで作られたパーツは、プロトタイプとしては十分な強度を持つものの、SLS方式は最終製品として使用可能な部品を作成するのに適しています。耐摩耗性、耐熱性にも優れており、実際の機械部品や構造体として使用されることもあります。
3. 多用途性
SLS方式は、試作品から最終製品まで幅広い用途に対応できる点で他の方式を圧倒します。FDMは主に試作品に適し、SLAはデザインモデルやプロトタイプに向いていますが、SLSは小ロットの最終製品や機能部品の生産にも強みを発揮します。このため、多様な産業分野での活用が期待されています。
適用例と活用事例
▲実際に最終製品として販売しているマウスのアタッチメントパーツ(Fuse 1+で製造)
SLS方式の樹脂3Dプリントは、その高い自由度や強度、耐久性の特長を活かし、さまざまな分野で実際に利用されています。特に、自動車、航空宇宙、医療機器などの産業では、SLS技術がもたらす効率性と設計の柔軟性が重要な役割を果たしています。ここでは、SLS方式が有効に活用されている代表的な分野とその具体的な応用例をご紹介します。
1. 自動車産業
自動車産業では、SLS方式が複雑な形状と高い強度を持つ部品の製造に効果的です。プロトタイプ製造が従来の金型より速く、開発スピードが向上します。軽量かつ耐久性のある部品は燃費改善にも貢献し、特注車両やカスタムパーツの少量生産にも対応できます。
2. 航空宇宙産業
航空宇宙分野では、軽量で高強度の部品が求められるため、SLS方式が活用されています。ナイロン製パーツは金属部品に代わるソリューションとなり、プロトタイプや機能部品の小ロット生産に対応。SLSは、軽量化や複雑な構造を持つ部品の製造にも適しています。
3. 医療機器
医療分野では、SLSの精度とカスタマイズ性が生かされ、義肢の製造に利用されています。手術用ガイドやモデルも作成可能で、手術の精度向上とリスク軽減に役立っています。
4. その他の分野
SLSは、消費財やスポーツ用品にも応用され、カスタムデザインのアクセサリーや靴のインソールなど、個別ニーズに応じた製品が製造可能です。
SLS方式を導入する際のポイント
SLS方式の樹脂3Dプリント技術は、その高い自由度や強度、精度から多くの企業に導入されていますが、成功するためには適切な準備と設備が不可欠です。ここでは、SLS方式を導入する際のポイントとして、必要な設備と初期投資、そして後処理の重要性について詳しく解説します。
1. 必要な設備と初期投資
SLS方式を導入する際に、まず考慮すべきなのは専用の3Dプリンターです。SLS方式の3Dプリンターは、レーザー焼結のために高精度なレーザーシステムと、粉末を均一に敷き詰めるための装置を備えています。これにより、複雑な形状や高精度なパーツの製造が可能になりますが、その分設備費用も高めです。
必要な装置:
SLS 3Dプリンター:主要な初期投資として、機種やメーカーによって価格は大きく異なりますが、精度や生産能力に応じて数百万から数千万円に達することがあります。
粉末供給システム:SLSでは樹脂粉末が主要な材料となるため、粉末供給装置や保管のためのシステムも必要です。また、未使用の粉末をリサイクルするシステムも合わせて導入すると、コスト効率が向上します。
粉末管理:粉末材料の品質を保つため、湿度や温度の管理が必要となる場合があり、粉末管理のための設備も必要です。
導入時には、設備の費用だけでなく、運用コストやメンテナンスも考慮する必要があります。粉末材料の補充や定期的なメンテナンスにはコストがかかるため、長期的な予算計画が求められます。また、導入後のスタッフのトレーニングも重要で、機器の操作方法や適切な材料の取り扱いについての知識を習得する必要があります。
2. 後処理の重要性
SLS方式のもう一つの重要なポイントは、後処理の工程です。SLSで造形されたパーツは、ビルドチャンバー内の未焼結粉末に包まれているため、造形が完了した後にパーツを取り出し、粉末を除去する必要があります。また、強度や外観の向上のためには追加の後処理が不可欠です。
後処理の工程:
粉末除去:造形後、未焼結の粉末がパーツ表面に残るため、エアブローや特殊な除去装置を使用して粉末を取り除きます。これにより、表面をきれいに整え、次の工程に進む準備が整います。
表面仕上げ:SLSで造形されたパーツは、表面に若干のザラつきが残ることがあります。そのため、サンドブラストや研磨機器を使用して表面を滑らかに仕上げることが一般的です。
染色やコーティング:用途によっては、パーツに染色や表面コーティングを施すことがあります。特に消費財やデザイン製品の場合、見た目を重視した処理が行われます。この段階でDyeMansionのような専用機器が使われることが多く、後処理全体を自動化することも可能です。
必要な機器:
パウダー回収システム:未使用の粉末を効率的に回収・再利用するシステムは、ランニングコストの削減に貢献します。
研磨機やサンドブラスト機:表面を滑らかにするための仕上げ装置。
染色・コーティング設備:見た目や耐久性を向上させるための処理装置。
後処理を適切に行うことで、SLS方式の強みである高強度で美しい仕上がりがさらに引き出されます。特に製品として市場に出す部品やデザインが重要な場合、後処理は欠かせない工程となります。
まとめ
SLS方式の樹脂3Dプリント技術は、サポート材が不要で複雑な形状を自由に造形できる高い設計自由度や、強度と耐久性に優れたパーツの製造が可能な点が大きな魅力です。自動車、航空宇宙、医療などの分野で幅広く活用され、試作から最終製品まで対応できる多用途性を持っています。
企業にとって、SLS方式の導入は製造スピードの向上や製品開発の効率化を実現し、新たなビジネスチャンスを生み出す大きなメリットがあります。初期投資は必要ですが、長期的な競争力強化に繋がり、高品質な製品の実現と市場での優位性を高めるでしょう。
YAMではFormlabs社のSLS方式3DプリンターFuse 1+を取り扱っております。
機器導入や受託造形のご相談はお気軽にお問い合わせください。
Comments