
現在、機能性の高いプロトタイプや最終製品にまで使える3Dプリント技術として注目されているPBF(パウダーベッドフュージョン・粉末床溶融結合法)。
実際にどのような技術なのか、違いは何なのか、そしてそれぞれのユースケースを本記事では解説します。
PBFを現在の製造プロセスに組み込むことをご検討中の方、ぜひご参考ください。
1. SLSとMJFの技術について
3Dプリント技術の中でも、粉末床溶融結合法(Powder Bed Fusion)は、高い強度と精度を持つ部品を造形できる手法として、多くの業界で採用されています。その中でも、SLS(選択的レーザー焼結)とMJF(Multi Jet Fusion)は、それぞれ異なるアプローチを持ち、用途に応じた活用が進んでいます。
SLS(選択的レーザー焼結)とは?

SLS(Selective Laser Sintering)は、レーザーを使用して粉末材料を局所的に焼結(溶融・結合)し、積層することで造形する技術です。
SLSの特長
高い機械的強度と精度を実現
サポート材が不要で、複雑な形状を造形可能
粉末の再利用が可能で、材料コストを抑えやすい
FormlabsのFuse 1+は、このSLS技術を採用しながら、コンパクトかつ手軽に導入できる点が特長です。
MJF(Multi Jet Fusion)とは?

MJF(Multi Jet Fusion)は、HPが開発した技術で、粉末材料の上に特殊なエージェント(インク)を噴射し、熱を加えることで造形する方式です。レーザーを使わずに、高速な造形を実現しています。
MJFの特長
均一な機械特性を持つパーツを短時間で造形可能
高速な造形スピードにより、大量生産に適している
表面仕上げが比較的滑らかで、後処理の負担を軽減できる
Jet Fusionは、特に生産スループットの向上や品質の均一性が求められる環境で強みを発揮します。
2. 主要な違いを比較

Fuse 1+(SLS)と Jet Fusion(MJF)には、それぞれ異なる特長があり、用途に応じて適した選択肢が変わります。ここでは、導入しやすさ・コスト・運用のしやすさなどの観点から、それぞれのメリットを比較します。
設置・導入のしやすさ
比較項目 | Fuse 1+ (SLS) | Jet Fusion(MJF) |
サイズ | コンパクトで、オフィスや研究室にも設置可能 | 産業用設備として設計され、専用スペースが必要 |
電源 | 100V電源で動作し、特別な電源設備が不要 | 高電圧が必要 |
換気設備 | 特別な換気設備は不要 | 大規模な生産環境では排気システムが推奨される |
コスト(導入・運用)
比較項目 | Fuse 1+(SLS) | Jet Fusion(MJF) |
本体価格 | 導入コストが低く、中小企業や研究機関にも適した価格帯 | 高速造形・大量生産に適した設計のため、初期投資が大きい |
ランニングコスト | 材料の再利用率が高く、運用コストを抑えやすい | 造形スループットが高く、消耗品や材料コストを考慮する必要あり |
メンテナンス | ユーザー自身で簡単に対応可能 | 高度な生産環境では専門的なメンテナンスが推奨される |
3. 使用シーン別の選び方
SLS(Fuse 1+)とMJF(Jet Fusion)は、どちらも粉末床溶融結合法(Powder Bed Fusion)を採用し、高精度・高強度の部品を造形できる技術ですが、それぞれ得意とする領域が異なります。
どの技術が適しているかは、用途・生産規模・運用体制によって変わります。ここでは、試作・小ロット生産・大量生産・運用のしやすさという4つの視点から、それぞれに適した選択肢を比較していきます。
試作・開発用途
✔ Fuse 1+ が適しているケース
設計変更に柔軟に対応できる環境を求める
コンパクトな設備で、低コストで運用したい
✔ Jet Fusion(MJF)が適しているケース
試作段階から最終製品に近い品質で造形したい
大量の試作を一度に行い、品質の一貫性を確保したい
小ロット生産
✔ Fuse 1+ が適しているケース
10〜100個程度の小ロット生産を低コストで行いたい
カスタムパーツのオンデマンド製造を重視
✔ Jet Fusion(MJF)が適しているケース
品質の一貫性を求める小ロット生産
高スループットを活かして短期間で生産を完了したい
大量生産
✔ Fuse 1+ が適しているケース
特定のカスタムパーツや少量量産に対応したい
✔ Jet Fusion(MJF)が適しているケース
短時間で大量の部品を生産する必要がある
製造ラインの一部として、継続的な量産を行いたい
4. まとめ|どちらを選ぶべきか?
SLS方式(Fuse 1+)と MJF方式(Jet Fusion)は、それぞれ優れた特性を持ち、用途に応じて最適な選択肢が異なります。
Fuse 1+ が適しているケース

✅ 試作・研究開発用途→ 手軽に導入できるコンパクトな設計で、高強度なナイロンパーツの試作が可能。
✅ 小ロット生産(10〜100個程度)→ 導入コスト・運用コストが低く、多品種・カスタム生産に最適。
✅ オフィス・ラボ・小規模工場での運用→ 特別な設備が不要で、簡単なメンテナンスで運用できる。
✅ 自社で運用し、少人数で管理したい場合→ ユーザー自身で管理でき、メンテナンス負担が少ないため、運用のしやすさが魅力。
💡 Fuse 1+ は、SLSの高品質な造形を「より手軽に」「低コストで」導入できるソリューションです。
Jet Fusion(MJF)が適しているケース

✅ 大量生産や大型品の造形を前提にしている場合→ 高速造形で、一度に多くのパーツを生産できる。また、ビルドボリュームがFuse 1+よりも大きく、大型のパーツ造形も可能。
✅ 品質の一貫性を最重視する場合→ 均一な機械特性のパーツを安定して造形可能。
✅ 専用の生産設備やオペレーターを確保できる場合→ 工場環境での大量生産ラインに組み込むことで、最大限のメリットを発揮。
💡 Jet Fusion は、量産や大規模な製造環境でのスループットを最適化するための選択肢です。
試作・小ロット生産・柔軟な運用を求めるなら → Fuse 1+
大量生産・大型造形・高速造形・均一な品質管理を求めるなら → Jet Fusion(MJF)
用途ごとの特性を正しく理解し、自社の製造プロセスや事業計画に最も適した3Dプリンターを選択することが重要です。長期的なコストや運用のしやすさも考慮し、最適な導入戦略を検討しましょう。
Fuse 1+やその他3Dプリンターの導入のご相談はお気軽に
3Dプリンターの選定には、用途や導入環境に応じた最適な選択が求められます。Fuse 1+ や Jet Fusion(MJF)の比較だけでなく、どの技術が自社の製造プロセスに適しているのかを具体的に検討することが重要です。
私たちは、お客様のニーズに合わせた最適な3Dプリンティングソリューションをご提案いたします。導入に関するご相談や詳細な情報については、お気軽にお問い合わせください。
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