計算機上で設計したものを造形し、
評価に活用、研究機構での事例
光造形方式のデスクトップ3Dプリンター「Form 3」は、実際にはどのような場面で利用されているのでしょうか。
今回は、物質・材料研究機構 主幹研究員 兼 筑波大学NIMS連携大学院 准教授 渡邊 育夢 氏に導入の目的や運用方法、導入後の効果についてお話を伺いました。
取材協力: 国立研究開発法人 物質・材料研究機構
#Form 3 #研究 #模型 #論文 #Form 1から使用
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計算機で設計したものを造形し、実験・評価を行う際に使用
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モデルの繊細な造形が可能
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豊富な材料ライブラリ、そして導入しやすい価格が魅力
研究員として、大学教員として、数値シミュレーション手法の開発を推進
ー まずは、渡邊さんについてお伺いできますか?
本務は物質・材料研究機構ですが、同時に筑波大学大学院の准教授を併任しています。また、現在、内閣府科学技術・イノベーション推進事務局へ出向している状況です。
物質・材料研究機構では、構造材料研究拠点にて主に鉄鋼やニッケル基超合金、アルミニウム合金などの構造用金属材料を対象とした研究に取り組んでいます。所属している「高強度材料グループ」では、ナノ・マイクロスケールの実験や計算を同僚が取り組んでいる中で、私はもう少し大きなスケールを対象としています。
筑波大学大学院では、「数理材料設計研究室」という研究室を運営しており、主に計算機を活用して材料設計を支援するための技術開発に取り組んでいます。数値シミュレーションによって、見えないものを計算機上で可視化したり、実験では評価できない物理量を抽出したり、小さなスケールと大きなスケールをつなぐことができます。現在、研究室には8名の学生がおり、全員が海外からの留学生です。
大学研究室内の学生が、Form 1からのユーザー。価格や材料の豊富さも導入ポイントに
ー どのような経緯でForm 3を導入されたのでしょうか?
実は研究室の学生のひとりが、Form 1とForm 2を中国で使っていたので、「使い慣れているし、よく知っているので導入して欲しい」という学生の要望があり、購入しました。購入しやすい価格ということもありました。また、高解像度で造形することが可能で、材料ライブラリが充実しているという点も導入理由です。
導入後に、ドラフト(排気設備)が必要と発覚しました。設置する実験室にはドラフトがなかったので、簡易ドラフトを自作しました。ビニールハウスの中で、Form 3を使用し、空気を吸引して建物の外に出すような設計です。
Form 3を使った2つの研究の論文を発表、実験・評価に必要な造形物を出力
ー どのようにForm 3を活用されているのでしょうか?
先ほども述べましたように、計算機を活用して材料設計を支援する技術開発に取り組んでいます。
その中で、計算機で設計したモデルを実際に3Dプリンターで造形し、実験・評価をして、計算・設計通りにできているかどうかを確かめることに、Form 3を使っています。
Form 3を使った論文を2つ発表しています。2つともMaterials & Designという比較的インパクトファクターが高い学術雑誌に掲載されました。
1. Xiaoyang Zheng, Xiaofeng Guo, Ikumu Watanabe, A mathematically defined 3D auxetic metamaterial with tunable mechanical and conduction properties. Materials & Design, 198 (2021) 109313.
DOI: https://doi.org/10.1016/j.matdes.2020.109313
こちらの論文では、triply periodic minimal surfacesという三次元周期構造を定義する関数を用いて材料微視構造を創り、巨視的な特性を制御する手法を開発しました。
特に、縦方向に押したら横方向も収縮する負のポアソン比を示すメタマテリアルを設計し、Form 3を使って造形しました。そして、その造形物の力学特性を材料試験で実験的に評価しました。また、ニッケル被覆によってメタマテリアル特性を損なわずに剛性・強度を向上できることを示しました。
▲実際に研究時にForm 3で造形したもの(左)
2. Xiaoyang Zheng, Ta-Te Chen, Xiaofeng Guo, Sadaki Samitsu, Ikumu Watanabe, Controllable inverse design of auxetic metamaterials using deep learning. Materials & Design 211 (2021) 110178.
DOI: https://doi.org/10.1016/j.matdes.2021.110178
もう1つの論文も、同様に負のポアソン比を示すメタマテリアルを対象としたものです。前の論文では数学的に関数を用いて”規則構造”を設計したのに対して、この論文では、深層学習による疑似画像生成技術である敵対的生成ネットワークGenerative Adversarial Networksを応用して、メタマテリアル特性を発現する”不規則構造”を設計する研究になります。
設計分野への深層学習の応用は現在,世界中で注目されている研究課題です。
こちらの研究でも、計算機上でメタマテリアルを設計し、Form 3を使って造形、そして材料試験で特性を実験的に評価しています。
▲実際に研究時にForm 3で造形したもの
以上の研究では、主にElastic 50Aを使って造形をしています。
三次元構造をディスプレイで見るだけでなく、造形して手に取って観察する
ー 今後も様々な研究にForm 3をご活用いただければと幸いです
まだ論文として発表していないので詳しいことは言えないのですが、顕微鏡で測定したマイクロスケールの三次元材料微視構造を計算機上で表示するだけでなく、Form 3でミリスケールに拡大して造形して、手に取って観察するという用途にも役立てています。三次元構造をディスプレイに表示して見てもよくわからないものが、実際に造形物を手に取って、じっくり観察すると、新しいことに気づいたり、インスピレーションが得られたり、ということがあると思っています。
今後も、計算機上で設計・表示するだけでなく、実際に造形して、実験・評価・観察するために、Form 3を活用していきたいと考えています。
ー 本日はいろいろお話いただき、ありがとうございました!
※掲載内容は取材当時のものです。